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免責不許可事由として「浪費」と裁量免責について

自己破産において、法律上、免責不許可事由に該当しない限り、免責許可決定が出されますが、免責不許可事由の1つとして、「浪費」によって著しく財産を減少させ、または過大な債務を負担したことが規定されています(破産法252条1項4号)。

では、ここにいう「浪費」とはどのようなことをいうのでしょうか?

また、「浪費」に該当するとして、どのような場合に裁判所の裁量によって免責が許可される(裁量免責)のでしょうか?

この点について、裁判例を見てみましょう。

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事件の概要

Xさんは、自宅マンションの購入に際し、勤務先の銀行から借りた資金の余剰資金を原資として、株式投資を始めました。しかし、株式投資の運用を任せていた投資顧問会社が倒産してしまったため、住宅ローン約2,000万円と、親戚から借りていた借金約100万円の債務を負ってしまいました。

その後、Xさんは親戚から上記借金の返済を迫られたことから、金融機関3社から720万円を借り入れました。Xさんは、株式投資によって金融機関に対する債務を返済しようと考え、別の金融機関4社から3,650万円を借り入れて株式投資を行いました。しかし、株式暴落により、多額の損失を負ってしまいました。

Xさんは、その後、職場を退職し、シンクタンクを設立して事業を行うことを計画しましたが、うまくいきませんでした。そのため、Xさんは自宅を売却し、売却代金5,730万円を債務の返済に充てましたが、約23名の債権者に対して、約2,151万円の債務が残ってしまいました。

A

決定要旨

⑴ 浪費行為について

裁判所は、以下の理由から、Xさんは「浪費」に該当すると判断しました。

Xは、投資顧問会社が倒産したことにより株式投資により得た利益を失い、債務を弁済するために再度株式投資を始めた昭和62年には、約3,000万円の借財をしていたのであるから、銀行員としての収入等に照らして堅実な返済方法をとるべきであったにもかかわらず、再度株式投資を計画し、当時のXの財産状態に照らして不相応な計3,650万円もの多額な借り入れを行って、その大部分をもとに株式投資を再開し、その結果過大な債務を負担したものであって、その行為は、(現行)破産法252条1項4号所定の浪費行為に該当する。

⑵ 裁量免責について

もっとも、「浪費」に該当するとしても、以下の理由から、裁判所はXさんには裁量免責を認め、経済的更生を図るべきであると判断しました。

  1. Xが債務を支払う単に株式投資を始めたことは、債務の堅実な返済手段とはいえないが、当時のバブル経済の渦中にあっては、Xのように株式投資に走ったことも無理からぬ面があるといえること。
  2. Xの株式投資が行き詰ったのは、平成2年の株式暴落が直接の原因であり、その責めをXのみに帰することはできないこと。
  3. Xは、退職して退職金を債務の返済に充てたほか、自宅を売却してその代金を債務の返済に充てるなど、それなりに誠実に債務の支払に努めてきたこと。
  4. Xは、Xを援助してきた父が死亡し、妻とも離婚するなどして、親戚等から経済的援助を受ける見込みが少ない上に、重度の身体障害者である母を扶養せざるを得ない立場にあること。

⑴ 「浪費」について

「浪費」に該当するか否かは、破産者の財産、収入、社会的地位、生活環境と対比して、破産者の金銭の支払や財産の処分行為が、使途、その目的、同期、金額、時期、生活環境、社会的許容性の有無等を総合的に判断し、当該支出が過度か否かで判断されます。

上記裁判例では、約3,000万円の債務を有していたことから、銀行員としての収入に照らして堅実な返済方法を採るべきであったにもかかわらず、さらに3,650万円を借り入れて株式投資を行い、その結果過大な債務を負担したことは「浪費」に該当すると判断されました。

A

⑵ 裁量免責について

次に、裁量免責ついて、その判断要素は、条文上、「破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情」としか規定されていません。

そこで、有力な学説では、主な判断要素として以下のものを挙げています。

  1. 破産手続開始までの事情
  2. 免責不許可事由に関する事情
  3. 債権者側の事情
  4. 破産手続開始決定後の事情
  5. 免責許可決定のもたらす影響

もっとも、これらの要素は、事案によって重点事項に相違があることを前提とされています。

上記裁判例では、主にアの事情を検討して免責を認めたと考えられています。

以上のように、仮に免責不許可事由に該当してしまったとしても、裁量免責が出される余地は十分にあります。

弊所では、免責不許可事由の有無及び内容をお聞きした上で、裁量免責の可能性、裁量免責が難しいと思われる場合には、破産以外の手段(個人再生等)による解決のサポートをさせていただきます。

自己破産についてお悩みの方は、弊所までお気軽にご相談ください。

A

  • 小早川秀樹『一問一答新しい破産法』(商事法務、2004年)
  • 伊藤眞ほか『条解破産法(第3版)』(弘文堂、2020年)
  • 芳賀雅顯『倒産法判例百選(第6版)』(2021年、174頁)

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