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破産と個人事業の継続

はじめに

個人事業主の方から、営業自体は黒字になっている等の理由で、事業を継続したまま破産をして債務を整理することができないかという相談を受けることがあります。

しかし、個人事業を継続しながら破産をすることは困難なことが多いです。本稿では、その理由について述べます。

個人事業への影響

破産者が個人事業主の場合、同時廃止事件ではなく、管財事件になることが一般的です。本稿執筆時現在、名古屋地方裁判所においては、破産者が申立前5年以内に個人事業を行っていた場合は、原則として管財事件とする運用になっています。

管財事件として破産手続が開始されると、破産手続開始決定時の財産・負債を基準とし、財産は管財人によって換価され、負債については破産債権として他の借り入れ等と同様に取り扱われます。また、双方未履行の契約については、管財業務に不要と判断されれば、管財人が契約を解除します(破産法53条1項)。

そうしますと、個人事業主の場合、事業の継続という観点から主に以下の3点の問題が生じます。

  1. 事業用の資産が売却されること

    個人事業主の場合、差押禁止財産に該当する場合を除いては、その財産が事業用かどうかにかかわらず、原則として管財人によって換価されます。

    事業用の財産を残すことができる場合として考えられるのは、当該財産に財産的価値がなく、換価されずに財団から放棄される場合や、親族などの援助を受けて管財人から買い受ける場合等です。

  2. 仕入れなどの買掛金、外注費、その他事業に関する債務が破産債権となり、個別の支払いができないこと

    破産手続開始決定前の原因による債務は、破産債権として他の債権と平等に取り扱われることとなります。財産を換価し余剰が出た場合には配当がなされますが、債権全額には及びません。

    そのため、支払いを継続することができず、事業の継続は困難になってしまいます。また、支払いを受けられなかった取引先からの信用が失われてしまうことも考えられます。

    このような事態を避けるためには、親族などから援助を受けるか、取引先に事情を説明して取引を継続してもらうようにお願いする等の対応が必要になりますが、いずれにしても実現は容易ではないと思われます。

  3. 契約関係について、破産管財人の了承が必要になること

    破産管財人は、管財業務に不要な契約関係については、解除して整理していきます。そうすると、事業を継続する上で必要な契約についても、管財業務に不要と判断されれば解除されてしまうことになります。そのため、契約を続行するためには管財人の了承が必要になります。

    したがって、破産手続中も個人事業を継続するためには、これらの問題をクリアしなければならないということになります。しかし、援助してくれる親族などがいる場合でも、破産を決断するまでには既に援助を受けている場合もありますし、援助の金額にも限界があります。また、取引先が取引を継続してくれるかどうかは取引先の判断に委ねられているので、手を尽くせば解決できるという性質のものでもありません。

    また、破産した後は信用情報機関へ信用情報が登録されるため、基本的に新規の借り入れはできなくなりますので、借り入れをせずに資金繰りをしていく必要もあります。

おわりに

このように、現在の個人事業を継続しながら破産することは困難であるといえます。したがって、個人事業を継続しながら債務を整理したい場合には、まずは任意整理や、個人再生手続の利用を検討することがよいでしょう。もっとも、いずれも継続的な支払いを前提にするものですから、本当に事業を継続して返済・履行をすることができるのかについては、しっかりと検討する必要があります。

破産以外の方法が選択できないという場合は、一度安定した収入を得られる形で就労する等して破産し、破産手続が終了した後に再度一から個人事業を開始するという方法も考えられます。ただし、過去7年以内に免責許可決定を得ていることは免責不許可事由の一つであり(破産法252条1項10号イ)、破産をしたとしても、再度の免責許可が得られない可能性がある点には注意が必要です。

債務整理手続を検討する際には、様々な点を考慮しなければなりません。弊所では、個人事業主の方も含め、個人の方からの債務整理の相談をお受けしていますので、債務整理をお考えの方は、一度ご相談ください。

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