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自己破産、という言葉を聞いたことがある方も多いと思います。借金で首が回らない人が検討するもの、という印象があるかと思いますが、そもそも、破産とは何でしょうか。
破産とは、債務者の財産を処分することにより金銭化し、その金銭を債権者に配当する手続です。どういうことかと言いますと、首が回らなくなった債務者の、不動産や車や保険などの財産を全部金銭化して、債権者で分けましょうということです。もちろん、首が回らなくなっている債務者ですから、全債権が満額回収できることにはなりません。それどころか、ほんのわずかな割合の債権しか回収できないことがほとんどです。しかし、破産手続がなければ、債務者のわずかな財産を債権者が奪い合うことになります。それを避けるための制度なのです。
破産手続に連動して、免責制度というものがあります。これは、破産手続に連動して行われる別の手続で、破産手続によって債権者に配当された分を除いて、債権を免れることのできる手続です(破産法253条1項)。破産する人の真の狙いは、破産制度そのものというよりも、免責制度です。しかし、免責できない場合もある(破産法252条1項各号、同法253条1項各号)ので、注意が必要です。
債務から解放されたい人は誰でも破産できるのかというと、そうではありません。破産手続を開始するためには、「支払不能」にあることが必要(破産法15条1項)です。
支払不能とは、「債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態」(破産法2条11項)を言います。
一般的かつ継続的に、というのがポイントです。「一般的に弁済することができない状態」とは、債務の一部だけを弁済できないのではなく、弁済期にあるすべての債務を弁済できないことを指します。「継続的に弁済することができない状態」とは、一時的な資金不足というわけではなく、今後弁済できるようになることがない状態を指します。企業で例えますと、現在は弁済できないけれど、5日後に大口の取引先から多額の売掛金が回収できる、それがあれば弁済できる、という状態は「継続的に弁済することができない状態」にはあたりません。
支払不能かどうかを判断するのを容易にするため、破産法は、債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定するとしています(破産法15条2項)。支払を停止(以下、「支払停止」といいます。)とは、ただ支払をやめるということではなくて、「債務者が、支払能力を欠くために弁済期にある債務を一般的かつ継続的に弁済できないことを外部に表示する行為」を指します。典型的なのが、6か月以内に2回手形の不渡りを出すことです。
しかし、何が支払停止にあたるかは、明確なリストがあるわけではなく、判例・実務の積み重ねによって判断されているのが現状です。
ある判例では、債務者が債務整理の方法等について債務者から相談を受けた弁護士との間で破産申立の方針を決めただけでは、特段の事情がない限り、債務の支払をすることができない旨を外部に表示する行為をしたとはいえないため、支払停止にあたらないとしました(最判昭和60年2月14日)。
またある判例では、東京都職員であるAが、弁護士法人B法律事務所に債務整理を委任し、同事務所の弁護士らが、債権者一般に対し、「当職らは、この度、後記債務者から依頼を受け、同人の債務整理の任に当たることになりました」「今後、債務者や家族、保証人への連絡や取引行為は中止願います」などと記載した通知をしたところ、この通知(以下、「本件通知」といいます。)をもって支払停止にあたるかが判断されました(最判平成24年10月19日)。最高裁は、Aが単なる給与所得者であり広く事業を営む者ではないという事情を考慮し、Aの代理人が債権者一般に対して本件通知を送付した行為は、Aが支払い能力を欠くために一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないことが少なくとも黙示的に外部に表示されているとみるのが相当であるとしました。
このように、実際に支払停止に当たるか否かが裁判で争われることもあるのです。
支払停止をしたとしても、支払不能が推定されるだけです。ですので、支払停止があっても支払不能にないことが債権者や債務者によって証明されれば、破産手続は開始されません。
逆に、支払停止がなかったとしても、支払不能であると認められれば、破産手続は開始されます。
昔、片山内閣の大蔵大臣、芦田内閣の国務大臣を務めたCが破産の申立てをし、破産宣告(今でいう破産開始決定)を受けた際に、Cの債権者が、Cは支払不能の状態にないとして争った事件があります。このとき、東京高裁は、「およそ支払不能とは、債務者が一般に金銭債務の支払をすることができない客観的状態をいうのであって、人の弁済力は財産信用及び労務の三者から成立するものと解せられる」とし、Cの財産、信用及び労務を検討した結果、Cは「全く支払不能の状態にあるものと認めざるを得ない。」としています(東京高裁昭和33年7月5日決定)。
以上のように、破産手続は誰でも開始できるものではなく、支払不能であることが必要になります。そして、何が支払不能に当たるのかは明確な基準があるわけではなく、法的な判断が必要です。ぜひ、弁護士にご相談ください。
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